【後編】3×3×3のキューブ達と苦楽を共にし、青春を捧げてきた男 ~モノ・ガタリEPISODE1 ~
~モノ・ガタリ~ それは、「モノ」を愛する者たちの語り。
町工場、其処は「モノがカタチになる」場所である。そんな場所に身置く多くの者たちは、「モノ」への偏愛が強い傾向にあることは、いわずもがな。 そんな、真っ直ぐな曲者たちの想いをお届けします。
モノ・ガタリの記念すべき第一回目の語り手として、前編でルービックキューブへの愛を大いに語ってくれた肥沼さん。ナビゲーターであるKB(小林部長)の「新人との会話は恋バナにもっていきがち」という特殊な癖が漏れ出る後半、スタートです。
思い出のハードディスクとしても機能しちゃってるんですよ。キューブはいいですよね、だから
KB さてさて、後半戦では、歴代の恋人たち(※)の中からベストオブキューブフレンドを選びましょうか。
※歴代の、ルービックキューブの意
うわぁーーー! それはめっちゃ難しいですねぇ…。最先端の一番良いものがベストキューブとは限らないですし、あの日、あの時、辛かった時にわーーと回したやつとか、音はうるさいんだけど、よく回転してくれるのとか、「ベスト」をひとつに絞るのはほんと難しいです。
KB うん、それは自分もよく分かります。最新の彼女が一番とは限らないからね。
これは初めて(ルービックキューブで)感動した、思い出のあるものですねぇ。友達に買ってもらった最初の競技用のキューブです。袋から開けた瞬間にふわって回ったんですよ!あの感動が忘れられない。これまでのものと全然違う、圧倒的でした。
KB 初恋はいいよねぇ、甘酸っぱいもんねぇ…。
たまにこれを回したくなるんです、初心に返る感じで。
KB 改めて振り返ると、たくさんの子(※)とお付き合いしてきましたね。
※もちろん、ルービックキューブの意
そうですね、同時期に何種類かのキューブを楽しんだり、なんとなくただ遊んだだけだったりとか、色んな感じで付き合ってきましたね。
KB ・・・このままだとキリがないので、まずは思い切って3つくらいに絞ろうか。
えーー、まじっすかーー! それは結構きついですね!
KB もういいかい?
まぁだだよ。
―― さらに時が経過 ――
ハァ、ハァ、ハァ・・・何とか、3つまで絞り込みました!
KB お、おぅ。とりあえず、それぞれの選定理由を聞こうか。
まず一番左ですね。これはぼくが学生生活をいちばん楽しんでいた時に使っていたものです。3番目に手に入れたルービックキューブだったかな。当時16歳で、恐いもの知らず、部活もやってて楽しかったし、色んな意味で青春真っ盛り、自分の全盛期ですね。
KB 全盛期イケイケだね。確かにそういうのは捨てがたいね。
真ん中は、18歳くらいの時で、部活をやっても上手くいかない、ちょっと疲れて落ち込んでいた時代に回していたものですね。終電間近の電車の中で疲れたサラリーマン達と肩を並べ、冷たい視線を浴びながら、それでもひたすらに回し続けていたほろ苦い記憶が蘇ります。
KB 人生、良い時ばかりじゃないから、辛い時に寄り添ってくれた子も大事だね。
最後の一番右のは比較的最近ですね。20歳くらいの時、就活などで将来を色々と考えて、自分の中で心の変化が一番激しかったときに回していました。就活の面接前に心を整えるために回すとか、いつも鞄に一緒に入れて持ち歩いていたことを思い出します。
KB 急速に大人になっていく、変わりゆくことの切なさがあるね。これは絞り切 れませんなぁ。
もうちょっと回していいですか?
KB 回すと何かが変わるの?
キューブに触れると思い出すんですよ。昔流行ってた音楽とか聞くとその当時のことを思い出しますよね、それと同じです。ぼくはほんとに一日中回していたし、授業中でも電車内でもずっと触れていました。すべてを思い出せるんですよ、それに触れるだけで。
KB それは凄いね、回すと記憶が蘇ってくる。というか、キューブの方に思い出が埋め込まれているみたいな。
思い出のハードディスクとしても機能しちゃってるんですよ。 キューブはいいですよね、だから。しかもちゃんとぼくの成長に合わせて進化してくれたから。全部詰まってる、ぼくの歴史ですから。
KB 何かよく分からないけど、ちょっと感動するわ。
決めました。これにします。
KB おお、辛い時代を支えた子だね。やっぱ男だね、自分もその選択分からなくないわ。
ちなみに、このときに本当の女の子にもフラれているんですよ。
KB それだけ弄んだら仕方ないわ!
<おわり>