(前編)東京都は、「手も出す」~ハードウェアスタートアップ支援事業「Tokyo Startup BEAM」とは~大地の叫び Season2 Vol.1
~シリーズ「大地の叫び」とは~
浜野製作所の「やってみなはれ文化」を余すことなく体現する男、山下大地。自称「COO(ちょっと お節介な お兄さん)」。シーズン1では、社内の技術紹介などをしていたが、今回、よりスケールアップして(行動範囲を広げて)カムバック。いろんなことに首を突っ込む企画である。
浜野製作所で、近年ロボットの製造依頼を担当することが少なくない設計開発部長の山下さん。7月31日に募集を締め切るハードウェアスタートアップ向けの支援事業”Tokyo Startup BEAM”が、「浜野製作所のお客さんのためになるんじゃなかろか!」と持ち前のお節介力を発動。
この事業を始めた東京都のみなさんと事業を運営する三菱UFJリサーチ&コンサルティングのみなさんに「Tokyo Startup BEAMって何?」という疑問をぶつけに突撃したのであった。
東京都さんがめっちゃ答えてくれたので、前後編でお届けします!
いざ、虎ノ門。

〜 Tokyo Startup BEAMとは〜
ざっくりいうと、”ハードウェアスタートアップ”つまり、ものを作って(使って)新しいサービス開発をする起業家たちを対象に「お金」「人脈」などなどを提供する施策。詳細は、オフィシャルサイトにて https://startup-beam.tokyo/


インタビューに答えてくれた皆さま
東京都 産業労働局 商工部 創業支援課 のみなさん
技術連携担当課長の堀江さん、課長代理の三木さん、主任の大石さん
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(以下、MURC)のみなさん
政策研究事業本部 経済政策部の北さん、川田さん
山下大地:冒頭で説明した人。今回のインタビュアー。以下、D。
和やかにインタビューはスタートしたのでした。
東京都は、「手も出す」
D:実は、経済産業省のStartup Factory(スタートアップファクトリー)構築事業というハードウェアスタートアップ支援が行われていたのと、何が違うのかなと思っているんですけど。今回の東京都の支援の特色っていうのはあるんでしょうか。
ズバリ、東京都は、「手も出す」ですね。東京都には試験研究機関の東京都産業技術研究センター(通称:都産技研)という技術に関する専門施設もあります。当然そこにアイデアをカタチに出来る機材があり、エンジニアもいます。また、創業や経営の相談もできる東京都中小企業振興公社もありますので、技術面でも経営の面でもサポートができます。
補足すると、元々、都産技研は試作品をつくるところではなく高度な試験を行うところなんですが、スタートアップが試作する場所として使いやすくすることで開発のスピードアップのお役に立てるのではないかと思っています。
D:都産技研の3Dプリンター、ホントにエェやつですよね。ウチに欲しい!
う~ん、資金提供だけでなく、アイデアをカタチにしてくれちゃう技術提供や経営相談までしてくれるというわけですね。自分がスタートアップだったら嬉しいですけど、それって、甘やかしすぎなような気も?創業支援はずっと続くものでは無いので、市場原理に任せた方が良い気もするんですけど。
はい。正直、そういう議論もあり難しいところもあるんですが、今は新たな事業の芽をはやく育てなければいけない。支援事業をきっかけにして、スタートアップが育つ環境を整えていき、お金や人の交流が循環する仕組みを回すことができればと思っています。
Tokyo Startup BEAMは、「つくる」ということだけを目的とした事業ではないんですよ。海外の「とにかく速くつくって市場に出す」というモデルをそのまま適用するのではなく、ものづくりの点では品質・安心・安全を考慮する日本のものづくりの文化を踏まえた、「東京モデル」が必要だと思っています。
D:なるほど。「東京モデル」ですか。市場に製品を出すなら、品質・安心・安全が必須ですよね。一方、自分の経験上、高速でモノを作ってとにかく市場に出すということも、同じくらい重要なんじゃないかと感じています。ハードウェアスタートアップのものづくりって、バージョンアップを前提にしているケースが多いので。
「もの」は、サービスを提供する上での仕組みの一部なんですよね。例えば、浜野製作所で支援しているポケットチェンジさん、彼らはソフトに軸足を置きつつハードを通してサービスを提供しています。
D:バージョンアップが前提となる案件は、「完成系」というのは存在しないんじゃないかって思うこともあるんですが、バージョンアップをする理由を聞いていると「早く市場に出して高速に改良し続ける」ってある意味正解なんだな、と思います。その変化のスピードに合わせて毎回つくるのは、製造側は大変だったりもするんですが。
Go to ホームセンター。原理試作、自分の手で「やってみなはれ」
D:他にも重要なこととして、スタートアップ自身が手を動かして試作品を一度自分自身で作ってみる、というのがあると思っています。原理だけでもよいので、ホームセンターで資材を買ってきて。最初のプロトタイプを自分の手で作ったことがある人は、私たちのような町工場、製造のプロと仕事をする時に「一緒にモノをブラッシュアップしていける」関係を作りやすいと思います。
仕様変更が重なるものづくりはスタートアップも製造側も大変ですが、自分で試作した経験があると、ものづくりの理解もさることながら気持ちが通じやすくなって、我々も「伴走してる」っていう気持ちになるんですよ。そうすると、こちらも情がわきますし(笑)、開発の効率が上がるんですよね。風力発電のチャレナジーさんはまさにそれで、発電機の原理を説明できるプロトタイプを代表の清水さんは自分でつくってみて、そこから相談にきてくれました。
ものづくりはどんどんブラッシュアップをすることが必要ですよね。なので、スタートアップの方には速くいいものを作れる都産技研をぜひ活用していただきたいです。
また、ものによっては、市場で高速にバージョンアップを繰り返せない、世に出す時には100%の状態でなければいけないものもあるかと思います。そうしたものも都産技研であれば試作を繰り返しながら、高性能な試験機を使って精度をあげることができる。そうした環境が東京にはあります!

「ものづくり」を支援する、ダケジャナイ。
D:先ほどのお話に出てきた、「東京モデル」っていうのは「ものづくりの品質」を重視するというものになるんでしょうか?
「ハードウェア」そのものを作り出すことも重要ですが、ものをつくった後に展開できる仕掛けも必要だと考えています。なので、この事業では人のネットワークの重要性にも着目していて、新しいものづくりのエコシステムをつくることもめざしているんです。

D:実は僕、「エコシステムってなんだろう」と、自分がスタートアップ支援をするようになって、かれこれ3年くらいモヤモヤ考えてるんですけど、現時点では「適切な人と会う」というのと、「本気度を共有できる」っていうことが必要なんじゃないかなって思っています。
「適切な人と会う」っていうのはタイミングの問題もあると思うのですが、それも今回の事業では行っていきます。Tokyo Startup BEAMの事業パートナーは、ハードウェアスタートアップの勘所をつかんでいる方たちなので、そこからも可能性が広がることもエコシステムの機能のひとつとして期待しているんです。
「じゃあ、今回の支援が終わったらどうなるの?」スタートアップのことが心配な山下さんの質問は止まりません。後編へ続きます!
→ 後半はこちら https://mag.hamano-products.co.jp/godaichi-tsb-2/